香炉庵のオープンからローストして来た今は亡き「富士珈琲機械製作所」の愛しき焙煎釜です。
寺本氏が存命の頃は中目黒に作業場があり、釜の調整や改善など日々足を運んでいましたが、 もうこの釜は製造していないと思うと、なお一層愛おしい釜となりました。
特徴は、直火式(ちょっかしき)バーナーが中心に一本あり、筒状の網のドラムが回転するいたってシンプルな焙煎釜で、直接バーナーの火が豆に当たり、香りや豆本来の個性をより強く表現できるという点は見逃せません。電気式やガス式の全自動とは大きく異なり、すべて手動で生豆(なままめ)は炒き手の技量により味が大変左右され、焙煎中は神経を集中してより一層豆本来の個性を引き出せる職人技としてローストし甲斐がとてもあります。
修行をしていた学芸大学の薫珈琲店では、天井から鎖で吊り下げられた手網で珍しい原始的な焙煎を経験しており、大きい網を前後左右に振るという大変体力のいる作業でしたが、子供の頃に囲炉裏でおやつ代わりに「あられ」を煎っていたので、網振りはすぐに馴染め次第に豆の水分の抜け具合・ハゼる時の匂い・ハゼ具合・焙煎した時の火の関係も重要だと思うようになりました。
ガスについては、当時東京では6Bを使っていましたが、新潟では天然ガスで、今の東京と同じ13Aでしたが同じガスストーブでも部屋の暖かさが全然違い、これはカロリーが違うということで生じた不思議な経験で、数年前に頼みもしないガス器具の交換工事が行なわれその影響なのかカロリーが急激に上がり焙煎に大きく影響が生じ、模索に明け暮れた時期もありました。
焙煎も陶芸と同じ釜が肝心で見事な出来映えは至難を要し火が強過ぎたり火に近過ぎたり振りが弱過ぎるとすぐに焦げてしまい、芯は残って硬くなり、火が弱かったり網から遠かったり振りが多き過ぎると色づきが遅く時間が掛かってしまい、見た目は美味しそうでも中身がスカスカで香りと個性が弱くなってしまう訳なのです。
収穫した産地の豆本来の味や個性を嫌味なく引き出すには、都市ガスは気候や時間帯によってガス圧が一定でないために味にも影響を及ぼす恐れがあるので、プロパンガスを使用してガス圧計・温調機器や気圧計などその日に応じた焙煎方法と長年の経験と五感に頼り、味を一定にさせるようローストをしております。
釜としては優秀なのですが、業界では様々な理由から旧式になってしまいましたが、あえてこの釜を選ぶところに拘りと妥協はしたくない考えで、面倒でもこの焙煎方法に挑むのが理由なのです。自動化され機械任せで出来上がった商品やオンデマンドなど注文を受けて少量から焙煎した商品とは訳が違い、焙煎する時はけして目が離せません。釜の温度や火が入り過ぎたり火が飛んだりその日の気候で味がブレがないよう、銘柄の本来の味を多くの方に知って頂き、優れた味覚から自身に適した珈琲をお選び頂ければと思います。
豆問屋から毎回、収穫された生豆の情報が寄せられ、より最上質の物を選び仕入れをしていますが、欠陥豆(カビや虫食い豆・貝殻豆・赤く発行した豆・やきむら豆や石など)が混ざり、これを手作業で取り除いて行きます。
豆の銘柄によって欠陥豆の量は様々ですが、生豆から焙煎後の選別まで約10~30%になりますが、特にモカの選別は大変です。
何十キロの中に欠陥豆が一粒混ざっていたとしても、味になんら変わりはないかもしれませんが、一杯分のコーヒー豆の中に一粒でも混ざっていたら味は大きく変わるという考えのもとで、丁寧なハンドピックは欠かせないのです。
浅煎りで酸味がある珈琲や、深煎りで苦味のある珈琲とお好みはあります。
香炉庵の珈琲はまずはストレートで、砂糖もミルクも加えないで飲んでみてください。スーっと口に広がる味わい深い珈琲に、どなたも驚き、専門店での珈琲の美味しさを実感して頂けると思います。
少し気分を変えて粉の量を増やし、砂糖やミルクを加え喫したり、深煎りならカプチーノやカフェ・ラテ、カフェ・オ・レと、浅煎りから深煎りまで幅広いバリエーションで、ご家庭でのひと時、ご友人とのお菓子を囲んだ楽しいお茶会をお過ごしください。
時に…… 香炉庵の珈琲はパンチがあり、珈琲酔い(ふぁ~と)することもあります。個人差はあると思いますが、毎日欠かさず飲んでいてもその日の体調で今日は重く感じたり、いつもの味ッ! おぉー 今日は特に美味しいゾぉー。こんな体験はないと言う方はとても健康的ですが、あれ・・・? っと、感じたら途中で控えるか、少し薄めたり砂糖やミルクを加えたりお口に合った飲み方で調整してくださいね。
オンデマンドでは味わえない癖になっちゃう味と風変りのマニア必見のお店です。
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